学生が満足のいく大学院生活を送ることができるかどうかは、“選択した研究室”次第であると言っても過言ではない。それくらい研究室選びは重要なのである。
業績を積めるか、はたまたその後資金や職が得られるか、うつにならずに研究生活を送れるか、そもそも修士や博士を取得できるか、など大学院生は様々な不安とストレスに常に襲われている。そのありとあらゆる不安やストレスを最小限にする方法、それは、『後悔しない研究室選びをする』ことだ。
私は、修士課程から博士課程で研究室を移籍している。
移籍を考えるにあたり、これまで少なくとも20研究室は訪問させてもらったと思う。その中で、研究室選びの際に判断基準としていた軸は以下の通りだ。
1. 研究室訪問の際、所属学生と1対1で話をさせてくれるか?
2. 研究テーマは1学生1テーマか?
3. 業績をコンスタントに出しているか?
4. 所属学生は『日本学術振興会特別研究員(学振)』など奨学金を獲得しているか?
5. これまで所属していた学生の就職状況は?
6. 学生1人あたりに対する作業環境は十分な広さか?
7. 資金・設備は整っているか?
1. 研究室訪問の際、所属学生と1対1で話をさせてくれるか?
良い研究室は『所属学生と訪問者だけで話をさせてくれる』。中には、進捗報告やミーティング、勉強会に参加させてくれるなど、「日常」をなるべく多く見せてくれた研究室もあった。
研究室訪問の際、PI(Principle Investigator, 研究室主催者)だけとしか話すことができない、またPIがいない環境では学生と話すことができない研究室は、まず要注意だ。
個人的な経験だが、良い研究室は積極的に学生と話をさせてくれる。その方が本音や普段の研究生活など聞きたいことが聞けて、満足度の高い研究室訪問になることを知っているからだと思う。
研究室訪問の際には、「所属している学生をよく見る」ことを強くお勧めする。所属している学生の立ち振る舞いや意見は、その研究室の状況を反映する良い指標となる。
いくらPI(Principle Investigator, 研究室主催者)が感じよく振舞っていたとしても、学生や研究員が殺伐としていたら、あまり良い環境とは言えない。なぜならば研究は個人プレーだけでなくチームプレーの側面も多く兼ね備えているからだ。
2. 研究テーマは1学生1テーマか?
大きい研究室や資金がない研究室では、何人かがグループを組んで1つのテーマをこなしていることが往々にしてある。今はどうか知らないが、過去には1つのテーマに人数を配置して競争させる研究室もあったらしい(このやり方は研究不正を引き起こすもとになるので反対である)。
あくまで個人的な意見だが、1つのテーマを細分化して行っている場合限られた実験しか出来ず、使い捨てのコマのようにされる可能性が高いと考えている。
自立した研究者になるためには、ゴールに向かって自由自在に手を出しあれこれ考えるスキルが必要である。そのため、それぞれ独立したテーマを設け、各学生にある程度裁量権を持たせてくれる研究室の方が、研究者としてのスキルを伸ばす上では良い環境であると思う。
3. 業績をコンスタントに出しているか?
もちろん、重視すべきは研究成果だ。最近の業績(過去5年以内)が全然ない研究室は、進学したところで得られるものも多くはないだろう。
中でも見るべきポイントは、「所属(していた)学生が筆頭著者の論文の質・量」だ。信頼できるランクの雑誌に学生がコンスタントに発表していたら、その研究室での研究指導の質もある程度良いはずだ。(学生が優秀すぎるケースもごく稀にあるのかもしれないが・・・。)判断基準として、インパクトファクターはあくまで目安に過ぎないが、それでもインパクトファクターが3以上の雑誌であるかどうかというのは、信頼できる成果かどうかの一つの指標にはなると思う。
4. 所属学生は『日本学術振興会特別研究員(学振)』など奨学金を獲得しているか?
意外と重要なのは、「所属学生が学振などの奨学金を獲得しているかどうか」だ。なぜかというと、所属学生が奨学金に通るような実績(学会発表など)を積んでおり、アカデミックライティングのスキルを身に着けているかどうか判断できるからである。そういった環境に身を置けば、自身も実績やスキルを身に着けられる可能性が高くなり、結果として申請書に通る可能性も高くなるからだ。
ライティングスキルを身に着けることは研究者に取って重要であるが、申請書のようなアカデミックライティングの書き方は一朝一夕で身につくものではなく訓練が必要である。奨学金の申請書などはアカデミックライティングの良い訓練であるが、初めから一人で完璧に書ける人などまずおらず、何度も何度も書き直す必要がある。学振に通る学生が多い研究室では、その過程の中で指導教官や先輩などが的確な改善方法を示してくれる可能性が高い。学生が学振をコンスタントに取っている研究室は、何をきちんと示さなくてはいけないか、どのように示すべきか、などの学振に通るためのノウハウを蓄積している可能性が高く、申請書の書き方をPIも心得ていることが多い。どこまで丁寧に学生の申請書を見てくれるかは各PIによりけりだが、学振研究員が多い研究室では、申請書の添削に関しても手厚いことが多い。
余談だが、奨学金を取るためには申請書の他に指導教官の良い「推薦書」が必要になる。つまり、指導教官の協力なくして奨学金は獲得できないのだ!指導教官とは最大限に良い人間関係を構築しておくことをお勧めする。
5. これまで所属していた学生の就職状況は?
その研究室出身の学生がどんなところで働いているか、もまた聞くべきポイントである。ポストドクターのような研究者として活躍している学生が多い研究室なら、自立した研究者になるためのスキルを博士課程で身に着けられる可能性は高い。自分が目指す将来像に近い先輩たちを多く輩出している研究室を選ぶべきである。
6. 学生1人あたりに対する作業環境は十分な広さか?
作業環境もまた重要である。部屋の広さに対してやたら所属学生が多い研究室だと、機材の取り合いやスペースの取り合いになる可能性が高く、自分が思う実験スケジュールを組めない可能性がある。もちろん研究室内の円滑なコミュニケーションの上、機材を確保し実験をすることは大切なのだが、スペースや機材にゆとりがなさすぎると日々の実験の際に非常にストレスになる。
7. 資金・設備は整っているか?
実験をする上ではどうしてもお金と設備が必要であり、この二つがないと何も始まらない。必要な機材を購入できる研究費を獲得できているか、そもそも実験設備は整っているか、は聞くべきポイントである。
個人的な意見だが、新規に立ち上げた研究室に行く際は要注意である。立ち上げ時でゼロからのスタートなので自由にやらせてもらえる可能性は大きいが、初めの3年ほどはどうしても機材や環境を揃えるので手一杯になりがちであり、研究はほとんど進まないと思った方が良いと思う。