女は強し・・・?~密か(ひそか)論文紹介No.1~
実験をするにあたって、既知の情報を集めるのは学術論文がメインだ。
だが正直、私は論文を読むのが苦手だ。
なにやら、小難しいことがずらずら。しかも英語で書いてあるし、難しいから何やってるのかよくわからない。
修士時代、論文を書く際に参考文献を色々と読み漁ったので慣れたような気がしたけれど、博士後期課程に行った今も読むのは苦労している。
実験で手を動かしてデータを見て考えることは大好きなのだが、勉強はあまり好きではなくて・・・。
しかしそうも言っていられないので、最近は論文を追う時間を作ろうとこころがけている。
多分、論文を読まずにはいられない!という院生も多いんだろうと想像するが、私はそこまでの域には達せていない。さんざん流れて、迷いながら、博士後期課程まで進学した身だから、博士には本当はあまり向いていないのだろう。この辺の進路の話はまとめてみようか考えたが、うまくまとまらないのでまた気が向いたときにでも。
そんな私でも、時々きれいなストーリーで無駄のない美しい論文だ!と感銘を受けることがある。(何を偉そうに。)
そこで、自己啓発がてら、面白いなと思った論文を時々ここにまとめておこうと思う。(頻度を決めてしまうと論文を読むのが苦痛になってしまうので、不定期で。理解していない部分も多々あるので、間違ったことを書いていたら教えてください。)
ちなみに私は、学部時代、栄養学を学び管理栄養士免許を取得後、博士前期課程で消化器官、特に膵臓の発生・再生の研究をしていた。その後、博士後期課程でラボを移り、神経科学の研究を始めたという経歴を持つ。
今回は、2020/12/23に出たNature Neuroscienceの論文。
“Maternal immune activation in mice disrupts proteostasis in the fetal brain.” (Kalish et al.)
マウスの母体の免疫活性化は胎児の脳のタンパク質恒常性を破壊する、という報告だ。
妊娠中の母親の体で免疫が活性化する(つまり炎症が起きる)と、子供の神経発達異常が起こることが示されている。例えばヒトでは、母親の炎症にさらされた胎児は自閉症スペクトラムになる可能性が高くなることが示唆されているという。
しかし、母親の炎症という有害な環境への曝露が、どうして子の神経発達に影響するのか、根本的なメカニズムはあまり明らかにされていない。具体的には、過去のマウスの研究で、Th17細胞というヘルパーT細胞が産生するインターロイキン17aという分子が関わっていることが示唆されたのだが、この下流にあるシグナル伝達のメカニズムに関してはよくわかっていない。
そこでこの論文では、免疫活性化させた妊娠マウスの胎仔の脳をシングルセルRNA-seqを使って網羅的に解析した。
面白いなと思ったのが、その結果、母体の免疫活性化は胎仔の性特異的な転写変化と関連していて、『オスだけにおいて』ストレス応答を活性化させ、その結果mRNA翻訳が損なわれ、新しくタンパク質を合成出来なくなるようなのだ。さらに、オスの仔だけに見られたこの免疫応答の活性化は母親のインターロイキン17aの発現に依存して起こるらしい。まとめると、この論文では『妊娠中の母親マウスがストレスにさらされると、胎内にいるオスの仔の脳のタンパク質恒常性が破壊される』ことを明らかにしていた。
ちなみに、免疫活性化させた胎仔の脳は何か確立された免疫活性化モデルマウスの系統でもあるのかなと思っていたが、ウイルス感染の模倣物(合成二本鎖RNA、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸という免疫刺激剤)を腹腔内注射させることで免疫を活性化させるとのことだった。
確かに、自閉症の発症率は女に比べて男のほうが4-9倍多いが、男の方がストレスの感受性が高いんだろうか。女にはストレスを軽減させる何か力を持っているのだろうか。はてさて、やはり女は強し・・・?